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「をかしいからとは何ごとだ。火事だといふから手伝ひに来たんぢやないか、そして溝に落ちたのが何がをかしいんだ」
「今日はえらい早いお帰りだね」
「さうですか」
房一は満足げに、かへつて来た犬の頭をかるくたゝいた。
が、要するに房一が腹に据ゑかねて座を立つたのはもつともだ、といふことに落ちついた。何でもなかつた。鍵屋の隠居が面喰つただけだつた。房一の方から云へば、彼は自分の存在を認めさせることになつた。それは、手ごはい、喰へない男、としての「医師高間房一」だつた。そして、こんな風に善かれ悪しかれ人に取沙汰される男は、河原町ではきはめて興味ある存在にちがひなかつた。
練吉若夫婦は診察所の二階を居部屋にしていた。そこと正文夫婦の住む母家おもやとの間には一見して判る気風の相違が現れていた。正雄はそこへ近づかないやうに云ひふくめられていた。
そのとき、女房に命じて、温泉を加熱する装置を施してもいいか、ときかせると、
「へーえ」
「はン」
と、鬼倉は意外に思つたらしい。小首をかしげていたが、
「うん、あの程度だと別に影響はないんだらう」
「いゝよ、君。帰りたまへ、その方がいゝんだから」
「あれですかね、やつぱり自分で歩かなくちやいけませんかね」
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